【裁判事例】19歳の新入社員が自殺 | パワハラ上司が「死んでしまえ」

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弁護士 林 孝匡
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こんにちは。
弁護士の林孝匡です(プロフィール)  

痛ましすぎます。

19歳の青年を、自殺に追い込んだ

パワハラ事件です。  
暁産業事件/福井地裁 H26.11.28  

高校を卒業したばかりの
新人1年目ですよ…

入社して、
わずか8ヶ月後の自殺でした。

原因は、上司の暴言によるパワハラ

ご遺族が、
会社と上司2名に対して
損害賠償請求をしました。  

裁判所は、
会社と上司に対し、
約7200万円の支払いを命じました。
(逸失利益 + 慰謝料 + 弁護士費用)

決め手は、

この青年が詳しく書いた手帳

でした。

判決の全文を読みました。
痛ましすぎる…

くわしく解説します。

そして、

記事の後半では

嫌がらせされてるんですけど、どうすればいいですか?

と悩んでる方に向けて、

後半の内容
  • そもそも、パワハラとは?
  • スムーズに会社を辞める方法
  • 会社都合を勝ちとる方法
  • 休職する方法
  • 証拠の集め方
  • パワハラを止める方法
  • 上司を異動させる方法
  • 上司に懲戒処分を出してもらう方法
  • 上司に損害賠償請求する方法
  • 労災を勝ちとる方法
  • 【おまけ】鬼滅の刃のパワハラ会議

を解説してます。

約1万文字あるので、
保存してゆっくり読んでみて下さい。

タップできる目次

会社の業務は
消化器販売、消火設備のメンテナンス
など。

お亡くなりになったXさんは、
19歳の新入社員でした。

パワハラをした上司Yは、
Xさんの直属の上司でした(リーダー)

↓ あとで解説します

ご遺族は、Yの上司である〈Z部長〉も訴えました。でも、Z部長への請求は認められませんでした。理由は〈Z部長はパワハラに気づけなかったから〉とされています

自殺に至るまでの経緯

平成22年4月1日に入社して、
12月6日に命を絶ちました。

入社して8ヶ月後に自殺しています。

詳しい経緯は、以下のとおりです。

H22.2.10 Xさんが会社でアルバイト勤務
     (高校3年生のとき)    

4.1  入社 正社員として働き始める

仕事内容は、消防設備などのメンテナンス。ショッピングセンターや企業を回っていました。上司Yと2人きりで現場を回ることが多かったです。

パワハラ上司と2人きり、
キツイですよね…

上司Yは、
Xさんが仕事を覚えないことに
イラだっていました。

Xさんに対し、

私が注意したことは必ず手帳に書きなさい。それをノートの書き写しなさい

と指導しました。

Xさんは、
その指導に従って、
手帳に色々と書いていました。

7月ころの手帳の記載は、以下のとおりです。

裁判官は、
7月〜11月の手帳の記載をみて
「きまじめな好青年である」
と認定しています

====

7月半ば 

Xさんが、泣きながら母に電話        

Xさん「仕事をやめてもいいか?」    

母「どうしたのか」

Xさん「上司Yから〈仕事がはかどらないから車の中にいろ〉と言われた」     

30〜40分ほど泣きながら電話  

====

↓手帳の黄色マーカー部分が、
〈パワハラにあたる〉
と認定されました。


母親の証言によれば、
「このころ、息子から笑顔が消えていた、
帰宅してもすぐソファで横になる、    
食事をとらず風呂にも入らず」  

このころ、もう限界がきたんだと思います

10.6  XさんがZ部長に退職の申し出
     →しかし、拒否される

フザけんな!
退職は自由にできます

11.29 
首をつるためのロープを購入 遺書を書く  

↓ 遺書の内容

皆様へ
半年ちょっとという短い期間でしたが、皆様と一緒に仕事ができて楽しかったです。
社長へ、勝手に行ってしまって申し訳ありません。半年間だけでも、社長の元で勉強させていただいたことを、誇りに思います。半年間、ありがとうございました。
丁原(Z)部長へ、半年間、ご指導いただき、ありがとうございました。役立たずで申し訳ありませんでした。
丙川(Y)さんへ、多分社員の中で一番迷惑をかけてしまいました。直せと言われ続けていたのに、何も変われなくてごめんなさい、とりあえず私はあなたが嫌いです。大嫌いです。でも、言われ続けたことに嘘はなかったです。全て私と、私に関わる人たちのために言われていたのだと思います。

12.6 命をたった日   

午前6時13分 会社から不在着信      
14分 Xさんが折り返す 上司Yと会話
    その後まもなく、
    自分の部屋で首をつる
30分 母が発見   

========

スケジュールを見ると、

命を絶った週と翌週、
上司Yと2人だけで
現場に行く予定だったんです。

もう無理だ…
と、

張り詰めていた糸が、
糸が切れてしまったんだと思います…

========

手帳の黄色マーカーのような、
暴言を吐かれてませんか?

▼ こんな発言はパワハラです

パワハラ発言の一覧はコチラ
【いまの発言、パワハラだぜ】上司が言ってはいけない言葉|アウト一覧

録音しましょう。

証拠の集め方はコチラ
【ゼッタイ必要】なパワハラ証拠9つと | 証拠が役立つケース7つ

手帳が証拠になった理由

裁判所は、
手帳を証拠として認めました

その理由は、

  • 上司YがXさんに対して〈指導されたことを手帳に書いてノートに写しなさい〉と言ったことを認めている
  • すべての日付が、Xさんと上司Yが一緒だった日と一致している (客観的事実と一致している)  

というもの。

林の見解

一般的には、
手帳が証拠として認められる可能性は
低いです。

しかし、本件では、

・手帳の記載が具体的だった
・Xさんの生真面目さがにじみ出ていた

ので、
裁判官の心を動かしたのでは
と推測しています。

メモを書くときは、
かなり具体的に
書きましょう。

裁判所が認定したパワハラ発言

手帳に基づいて

裁判官は、こう認定しました

「これからすると、手帳の記載内容は、一部自問自答の部分を含むため不明瞭な部分があるとはいえ、この記載によると、Xさんは上司Yから次のような言葉またはこれに類する言葉を投げかけられたことが認められる」

そして、
上司Yが投げかけた言葉として、

手帳の黄色マーカー部分がパワハラにあたる
と認定しました。

具体的には、こう認定しました。

「これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Xさんの人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず、不法行為に当たる」

と認定しました。

上司は、
〈そのような言葉を投げかけたことはない〉
と言ったんでしょうか。
裁判になると、上司は、パワハラの事実を否定します

しかし、裁判所は、
「上司Yの供述は〜採用できない」
と断罪。

青年の手帳の記載を信用しました。

【暴行があったか?】について

Xさんのお父様は
〈息子が暴力を振るわれていた〉
と主張していました。

しかし、裁判所は
「上司YがXさんに暴力をした証拠はない
と、認めませんでした。

厳しい現実ですが、
証拠がなければ、
裁判所は認めてくれません

裁判は、証拠が命です。

上司・会社を訴えたい方は、
是非コチラの記事もご覧ください
【ゼッタイ必要】なパワハラ証拠9つと | 証拠が役立つケース7つ

【最大の争点】自殺の原因はパワハラか

自殺の原因はパワハラか?

これは、裁判で徹底的に争われます。
※ 相当因果関係といいます  

会社は徹底的に争ってきます。

なぜなら、因果関係が認められると、
すなわち
〈自殺の原因はパワハラだ〉
と認定されると、
会社は数千万円の支払いを命じられるからです。
 
この事件でも、かなり争われました。

Xさんのご遺族側と会社側が、
医師の意見書を提出して争いました。

====

会社の主張は、次のとおり

会社の主張

「Xさんは、勤務中に車の中で居眠りすることがあった。Xさんは閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群という病気にかかっていた。 自殺した原因はパワハラではない。自分の能力に悲観して亡くなった」    

そして、その裏付けとして、
ある医者の意見書を提出しました。

しかし、裁判所は、

「会社側が根拠としている医師の意見書は、医師自らが〈正確な医学的検査をしていない〉〈Xさんと直接会ったわけでもなく、また具体的に働いている現場を見ているわけではないので、推測でしかない〉と認めるように、医学的根拠に乏しく、被告らの主張は理由がない」

と判断しました。

そして、
Xさんが自殺した原因はパワハラである
と認定しました。
※ 相当因果関係が認められました

裁判官の思考過程は、
次のとおりです。

判決原文から抽出して
箇条がきにしています。

裁判官の思考過程
  • メモに記載しているように、Xさんはミスをなくそうと誠実に努力していた。  
  • そのような状況なのにもかかわらず、上司YはXさんの人格を否定する言動を執拗に繰り返し投げかけた  
  • このような上司Yの言動から受けるXさんの心理的負荷は極めて強度だった。なぜなら、Xさんは高卒の新入社員なので、仕事をするときの緊張感や上司からの指導を受けたときの圧迫感は相当大きかったからである。  
  • Xさんが受けた心理的負荷の大きさに照らせば、上司Yの言動は、Xさんに精神障害を発症させるほどのものであったと認められる。
  • 業務以外に、心理的負荷がかかるような出来事はなかった。
     裁判官は、パワハラの他に要因があるか?を検討します。  
  • Xさんには特異な性格傾向や既往症、生活史、アルコール依存症などなかった。  
  • 性格的な偏りもないし、むしろ、手帳の記載を見れば、きまじめな好青年である

    いつ精神障害が発症したかの認定に進みます
     
  • そうすると、Xさんがロープを購入し遺言書を作成した日(11月29日)には、上司Yの言動が原因で〈中等症うつ病エピソード〉を発症していたと推定できる。(監督所長が依頼した専門医の意見〈正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害された状態になり、自殺に至った〉は採用できる)     

    ※ 林の追記 その1週間後(12月6日)に自殺
  • よって、上司YのパワハラとXさんの自殺との間の相当因果関係は認められる

この因果関係の審理だけで、
1年〜1年半くらいはかかります。  

ご遺族の精神的苦痛は
計り知れないです・・・。

なので、

自死を決意する前に辞めてください

裁判所が認めた金額  

  • 逸失利益 4727万3162円    
    逸失利益とは〈65歳くらいまで生きていたとすれば収入をいくら得ていたか〉というものです。    
    計算方法は色々あります(ライプニッツ係数・新ホフマン係数など)    

    〈この裁判の計算式〉
     年収523万0200円×(1−0.5)×18.077(48年に対応するライプニッツ係数)=4727万3162円    
     
  • 慰謝料 2300万円    
    裁判官は、特に理由を示しませんでした。  
  • 弁護士費用 600万円

Z部長への請求は認められず

Z部長への請求は、
認められませんでした。

理由は、
Z部長はパワハラに気づけなかった
と認定されてます。

メモ

パワハラは【上司ごと】に判断されます

会社は自由に辞められる

ここで大事な情報を。

Z部長は
Xさんの退職届けを拒否してますが、

あなたは、会社を自由に辞めれます。

会社は、
アナタが出した退職届を
拒否できないんです

民法に書いてあるんです。

根拠条文

民法・第627条

①当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する

あなたが、

2週間後に辞めさせていただきます

と言って、
退職届を出して、
一方的に辞めることができます

退職届の書き方はコチラをご覧ください
退職【願】はダメ!パワハラ会社を辞めるときは【退職届】 例文を紹介

精神的にキツくて今すぐ辞めたい方は、
退職代行を使ってください。
【完全解剖】退職代行とは? | あなたの全疑問に答えます【弁護士解説】

裁判の長さ  

地裁で2年半以上です。  

医師の意見書の提出などで
審理が長引いたと思います。  

相当因果関係の審理は、
とても長引きます。  

控訴されたので、
さらに4ヶ月〜9ヶ月位かかったと思います。  

控訴審では会社の言い分が一部認められています。  
どれだけ認められたのか、詳細は不明です。

あなたは悪くない

責任感の強い若者が命を絶った、
悲しい事件です。

19歳ですよ・・・。

会社の仕組みもあまり分からない、
世の中の仕組みも分からない、

そんなときに、
執拗なパワハラを受け続けました。

「自分が悪いんだ」
と責め続けて、
心を病んでしまいました。

====

ある本を読んでみたんですが、

うつ病が進行すると
「死ぬ以外、方法がない」
と視野が狭くなるようです。

もし、同じように考えてる方がいれば、
この本を読んでみて下さい。

もっとテキトーでもいいんだ

と肩の荷がおりて、
視野が広がると思います。

「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由

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