【裁判事例】無実の部下を疑うパワハラでうつ病に【慰謝料300万】

弁護士の林孝匡です(プロフィール

「あのさ、不正してない?」

生命保険会社でのパワハラ事件です。
(富国生命事件/鳥取地裁米子支部 H21.10.21)  

ざっくり

生命保険を契約したお客さんが、
マッハで3ヶ月後に死亡しました。

支社長は、仰天しました。

支社長

いや、
死ぬの早すぎ!
・・・なんか、
おかしいぞ。


不信感を持ちました。
契約を担当した部下の女性(Xさん)に不信感を持ったんですね。

これをきっかけに
パワハラが始まりました。

裁判所が認定したパワハラは3つです。

3つのパワハラ
  1. 支社長がXさんに
    〈まさか不正してないよね?〉
    という感じの言葉をぶつける
  2. 「マネージャーが務まると思ってるのか!」という叱り飛ばし
  3. Xさんがリーダを務めている班を、強制的に分裂させる

3つのパワハラにより、
Xさんは〈ストレス性うつ病〉になりました。

裁判で認められた慰謝料300万円です。

けっこう大きいですね。
〈パワハラが原因でうつ病になった〉
と認定されれば、
慰謝料は跳ね上がります。

どんな営業職にせよ、
「〜が務まると思ってるのか!」
とか言われてません?

訴えれば勝てる可能性あります。
くわしく解説します。

分かりやすく書いてますが、
8,000文字を超えてます。
ブックマークしていただいたほうが
良いかもしれません。

タップできる目次

こんな会社

登場人物

  • パワハラをされた方:Xさん
    (女性・当時53歳・マネージャー) 
  • 上司Y(支社長)
  • その部下の上司Z(営業所長)

こんな営業所

  • Xさんの班のほかに、5班あった
  • 班のマネージャーは、数名〜10人くらいの部下を持つ(営業職員)

地方の営業所で起きた事件です。
50〜70人くらいが所属する営業所だと思います。
Xさんは、班のマネージャー(リーダー)でした。

パワハラに至った経緯

Xさん

3つのパワハラは、
ある事件をきっかけに始まったんです。上司Z(営業所長)の
チョンボが発端です。

まず、その事件をお伝えします。

きっかけになった事件
  1. 上司Z(営業所長)のチョンボ
    上司Zが、顧客Aさんという方の件で、更新手続きを忘れました。
    ※複雑な契約でしたが、ザックリ言えば 
  2. 会社は、そのトラブルの担当を、
    Xさんに命じました。  
    XさんとAさんの妻が、
    顔なじみだったからです。   
    会社は〈コチラの謝罪をAさんに受け入れてもらいやすい〉として、
    Xさんを選んだんだと思います。
    上司Z(営業所長)は
    Aさんに謝罪してません。
    #尻ぬぐいを部下にやらせるクソヤロー   
  3. 顧客AさんはXさんの謝罪を受け入れました。
    で、会社の提案どおり、
    新たに生命保険を契約しました。
  4. 顧客Aさんの死亡
    なんと!その3ヶ月後にAさんが亡くなりました。
  5. 会社が、Xさんに不信感を抱きました。
    〈いやいや、死ぬの早すぎっ〉って感じで。
    〈症状をコチラに伝えないようXさんが仕向けたのでは〉
    という疑いを持ちました。
    病状を伝えないように顧客をそそのかすことを〈不告知教唆〉といいます

本社から調査部隊が来て、
Xさんに聞き取りしました。

調査の結果、不正なしと判断されました。
なので、
保険金を支払う方向で話が進んでいました。  

保険金を支払う方向で話が進んでいることを、上司Y(支社長)・上司Z(営業所長)は知っていました
↑ あとで効いてきます

このような状況の中、
パワハラ1と2が行われました。

パワハラ1(不正してない?と疑う)

不正してない?

上司Y(支社長)がXさんの席に来て、

Y支社長

顧客Aの件だけどさ、
病状をコチラに伝えないように仕向けてなかった?

みたいなことを言いました。

そのとき、2人の周りには
他の社員
がいました。

裁判官は
この発言は違法だ
と認定しました。

ほかの社員がいる場所
疑いをかけた点について、
裁判官はザックリ、

裁判官

サイテー!
・管理職としての配慮に欠けている
・保険金はらう方向だったんでしょ
・じゃー、わざわざ聞く必要なかったよね
・しかもみんながいる前でさ
 ちょーサイテーなんですけど!
 違法!

と判断しました。

〈叱る場所がどこか?〉
はカナリ重要です。
裁判所は、重視してると思います。
会議で見せしめ的に叱っていれば
パワハラの可能性大です。

パワハラ2(プライドを踏みにじる)

そして、同じときに、
パワハラ2も行われました。

Xさんの班は、他の班と比べて
成績が悪かったんです。

で、Y支社長が、Xさんに対して

上司Y(支社長)

マネージャーが務まると思ってるのか
マネージャーをいつ降りてもらっても構わない

と強く叱り飛ばしました。

この発言について裁判官は、

裁判官

Xさんは、15年間、マネージャーで頑張ってきてたじゃん!Xさんのプライドを傷つけたよね。サイテー!違法!

と判断しました。

こぼれ話

上司Y(支社長)って、
冷たい人だったようです。

判決では

  • 成績が良くて自分の気に入った人にだけ声をかけていた
  • 多くの職員が指摘していた

    と認定されています。

話が変わりますが、
↓ これくらいの叱り飛ばし

上司Y(支社長)

マネージャーが務まると思ってるのか
マネージャーをいつ降りてもらっても構わない


って、どこの営業部でも
行われてるんじゃないですかね。

でも、裁判所にもっていけば、
違法だ!と判断してくれる可能性が高いです。
※ 叱咤激励をえてるとの判断

なぜかと言うと、
裁判所って
〈ミラクル・ウルトラ・ピュア職場〉
なんです。
純白です。

なので、
あんな叱り飛ばしがされることって、
おそらくないんですね。

↓ こういうおとなしい方たちが働いてます

怒号が飛び交うことなんか、
ありえない職場なんです。

書記官も、その他の職員さんも、
めちゃくちゃおっとりした方です。

産声をあげてからずっと
ホワイトな人生を歩んでるんですね。
もちろん、裁判官も。

なので、
〈こんな発言、ダメだろ!〉
って判断してくれる可能性が高いです。
※ 育ってきた環境が違うから〜価値観は否めない♪(SMAP・セロリ)

あなたの会社では常識でも、
裁判所からすれば非常識かも

洗脳から解き放たれましょう

録音しましょう!

顧客Aさんの妻がブチギレ

顧客Aさんの妻は、Xさんに

Aの妻

保険金は下りるのでしょうか・・?


と聞いてました。

なので、

Xさんは、上司Y(支社長)に

Xさん

顧客Aさんの件ですが、
保険金は下りますか・・?

と聞きました。

すると、上司Y(支社長)は、

上司Y(支社長)

分からない。告知義務違反に問われることもある。であれば保険金は払われないし、そうなると、顧客が裁判しても難しいだろうね

と答えました。
※イジワルな奴だ。保険金が払われる方向で話が進んでるのを知ってたのに

Xさんは落胆し、
顧客Aさんの妻に

Xさん

調査ため、しばらく時間がかかります。上司Y(支社長)は〈保険金の支払いは絶対ない〉と言ってるので・・・難しいかもしれないです

と伝えました。
※ 絶対ないとは言ってないんですけどね。ちょい言いすぎましたね

これに、顧客Aさんの妻がブチギレました。
会社の代表取締役あてに手紙を送りました。

ザックリいうと

Aの妻

元はと言えばそちらのミスで生命保険を新たに契約したんですよ。「払えない」ってどいうことですか!


という怒りです。

この手紙が、本社に届きました。
その後、上司Y(支社長)・上司Z(営業所長)の元に届けられました。

上司Y(支社長)・上司Z(営業所長)は、
Xさんに腹が立ったんでしょうね〜。

Aの妻にイランこと言うなよな〜

て感じで。

この件をきっかけに、
パワハラ3が行われました。

パワハラ3(Xさんの班を分裂させる)

顧客Aの妻がブチギレた事件のあと、

上司Y(支社長)・上司Z(営業所長)は、
Xさんの班を、強制的に分裂させました。
※ 嫌がらせのゴングが鳴りました

Xさんの班にいた
白河さん(仮名)ら4人を分離させたのです。

班の分離は、
マネージャーであるXさんの収入に
大きく響く
ようになってました。
なので、班を分離するには、
Xさんの承諾が必要だったんです。

会社の言いぶんは、

嫌がらせじゃないですって!班の分離は、営業所を活性化するために必要なんです。マジですよ!

というものでした。

この点について、
裁判官はザックリ

裁判官

だまれ〜!
・この時期に分離せなアカンかったか?
・白河さんも、嫌がってたやん
・Xさん同意がなければ分離はイヤですって
・分離を急ぎすぎよね
 必要性もないのに
・Xさんへの説得も時間が短いわ
サイテー!違法!

と判断しました。
※ 白河さん、センパイ思いです。女性のきずな

そのほかのパワハラ

Xさんは、
〈ほかにもパワハラがあったんです〉
と主張したんですが、

裁判官

Xさんの主張を裏付ける
確たる証拠がない

と言われ、認めれませんでした。

認められなかったパワハラ
  • 上司Z(営業所長)が「お前のせいで始末書を書かされて減俸処分になった」と言った
     ※ 録音できれば良かったです
  • 上司Z(営業所長)が、Xさんのいないミーティングで、班の分離について「Xは何を言ってもダメだ」と言った
  • 叱責が必要以上に長時間だった
     ※ 録音できれば良かったです
  • 班員が退職したことについて、私に責任がないのに叱ってきた
     ※ 録音できれば良かったです
  • 上司Y(支社長)・上司Z(営業所長)が、班の分離後、挨拶しなくなった
     ※ 録音できれば良かったですおはようございます!と言ったあとの無音で立証
  • 診断書を提出しているのに、上司Z(営業所長)が他の社員に「Xは無断欠勤をしている」と言った

不穏な空気を感じ始めたら
録音しときましょう。

証拠がなければ、ホント厳しいです。
裁判は証拠いのちです。
コチラの記事もどうぞ
【証拠9選】パワハラ上司&会社を訴えるために【ゼッタイ必要】

裁判で認められた金額

Xさんは、
慰謝料を含めて約8800万円の請求をしました。
しかし、裁判所が認めたのは、
慰謝料だけ300万円でした。

少し細かいですが、

Xさんは、
↓ この時系列をもとに

時系列
  • H9.2〜4 動悸等の症状でM病院で診療   
  • H12.4 職場組合の会長を引き受けざるを得なくなり、10日位欠勤。       
    精神的不安定になり、受診、という経緯があった   
  • H14.10 顧客Aさん事件(Aさんが亡くなる)
  • H15.2.7 パワハラ1(不正してない?と疑う)
         パワハラ2(プライドを踏みにじる)
  • H15.2.19 C営業次長がXさんを喫茶店に呼び出す         
  • H15.2.20 上司Z(営業所長)もXを呼び出す       
         「Y支社長の言葉をそのままAの妻に伝えたのではないか」
         という叱り飛ばし        
  • 2月ころ、Xさんは不眠が続いていた
  • H15.4.1 パワハラ3(Xさんの班を分裂させる)
  • H15.6〜7 X 食欲減退 動悸や疲労感  
  • H15.7.31 X 出社したが、動悸が激しくなり早退。
           〈ストレス性うつ病〉と診断
  • H15.8.1〜 会社を休む        
          27日間の有給休暇
  • H15.8.4〜 入院  
  • H15.9.28 退院  
  • H15.10.16 D内務次長との面談 また悪化    
  • 10.24 再入院    
  • 12.25 退院  
  • H16.3.1 休職届        
  • H17.8.31 自動退職
  • H19.11  別の生命保険会社に営業職員として就職、再稼働。
Xさん

パワハラが原因で
今後14年間、働けない体になってしまったんです。
補償して下さい

で、約8800万円もの請求になったんです。

Xさんが請求した項目
  • パワハラが原因で入院することになった
    入院雑費:17万8500円(入院119日)
    入院交通費:1万9185円
  • 有給とっただけでは治らない。パワハラが原因でそれ以降も働けなくなった。
    退職前の逸失利益の請求 約850万円
  • パワハラが原因で65歳まで働くことができず、退職金をもらえなかった。
    退職金の請求 約1400万円
  • パワハラが原因で、今後14年間、働けない体になってしまった。
    退職後の逸失利益 約5050万円 
  • 慰謝料 1500万円

が原因で】が争点です。
むずかしい言葉で言えば
〈相当因果関係〉の話です。
〈私がこうなったのはパワハラが原因だ〉という主張が認められるどうかの場面です。

裁判所の判断は、

裁判官

パワハラが原因で
うつ病に
なったことだけ認定します。慰謝料300万円です

というものです。

裁判官

でも、うつ病は27日間の有給休暇で治ったでしょう〜。
〈パワハラが原因で〉働けない体になった、とは言えない

と判断しました。
※ 〈パワハラ〉と〈14年間、働けない身体になったこと〉との間の相当因果関係が認めせんでした

ザックリ言うと、

○ パワハラ→うつ病になった
   でも、
 有給休暇の27日間で回復できた
   なので、
× パワハラ
   →入院しなければならない
× パワハラ
   →働けない身体になった

て感じです。

うつ病になった慰謝料として、
300万円だけが認められました。

裁判官は、何を根拠に
・入院は不要だ
・27日間の休暇で治ったはずだ
と判断したのか?

それは、カルテです。

裁判官はカルテに注目する

裁判官はカルテに注目します。
ていうか、カルテだけしか見ません

カルテを見て、

裁判官

ふむふむ。こんなことをされてたのか。

裁判官

・○回、病院にいってるのか。
・上司の発言が原因で、だんだん症状が悪くなっているようだ
・これだけのことを、これだけの期間やられていれば、
 うーーーーん。うつ病になるかなぁ〜〜。うーん

と悩みます。
こんな思考過程です。

Xさんが提出したカルテには、
パワハラについても書かれてたんですが、


パワハラ以外のことも結構かかれてたんです。

だから、裁判官は、

裁判官

家族のことでも悩んでる。事件前からストレスあって心療内科にも通ってるな。ちょっとメンタル弱い方なのかな。上司Y・Zのパワハラだけで悪化したわけじゃないよな〜

と考えたのではないかと。

↑は、私の見解です。
判決文からは、裁判官の判断過程は読みとれませんでした。
カルテの事実を挙げて
〈よって、27日の休暇で治ったはずだ〉という論理構成なので。

判断過程よくわかんねー!
って感じでした。

あと、

裁判官

休職して3年8ヶ月後には、別の生命保険会社に営業職員として就職してるやん。14年働けない身体になった、とは言えないよな〜

とも考えられたと推測してます。

裁判官はカルテだけしか見ません。
なので、
カルテに何を記載してもらうか、
超重要です。

もし、カルテに上司Y・Zのパワハラのことだけが書かれていたとすれば、
・・・結論は変わったかもしれません。

裁判の長さ

約2年半です。
けっこう長いです。

通常は1年くらいなので。

うつ病や休業損害が争点となる場合は、
けっこう長引きます。

おしまいに

この事件から得られる教訓は、
カルテの記載が、超大事
ですね。

もし、カルテに、
上司Y・Zのパワハラのことだけ書かれていたら、
14年とまでは行かないにしても、
数ヶ月〜数年の逸失利益が認められた可能性もあります。
100万円単位で増えた可能性あり。

数ヶ月〜数年は働けなかったよね、
だからその期間の収入分は認めよう
ってことです。

カルテにどう残すか、マジで重要です。

あと、合わせ技で日記も使えます。
具体的なパワハラと体調の悪化を
具体的に書いておく。

すると、
カルテ+詳しい日記
という合わせ技で
証拠の力が強まります。

証拠は多ければ多いほど
勝つ可能性が高まります。
↓ コチラの記事を読んで是非あつめて下さい。
【証拠9選】パワハラ上司&会社を訴えるために【ゼッタイ必要】

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